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広島地方裁判所 昭和54年(ワ)537号 判決

原告 総評全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部

被告 東洋シート労働組合

補助参加人 株式会社東洋シート

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明渡し、同(二)記載の物件を引渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  右1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

主文一、二項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告補助参加人株式会社東洋シート(以下、単に会社という)は、原・被告の肩書地に広島工場を、兵庫県伊丹市内に伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を業とする会社である。

会社の従業員で、かつ総評全国金属労働組合(以下、全金と略称する)の組合員である者をもつて組織する、「総評全国金属労働組合東洋シート支部」(以下、支部組合という)が存在し、これが原告にあたる。支部組合は、単一の労働組合である全金の一下部組織である。

被告は、支部組合がその大会決議により、全金から組織的に脱退したと主張する者の集団であるが、その実体は、全金から個別に脱退した組合員が集合して新たに組合を結成したものに過ぎない。

2  別紙物件目録(一)記載の建物(以下、本件建物という)は会社の所有であるが、原告は会社との間でその使用貸借契約を結び、組合事務所としてこれを占有、使用してきた。

また、別紙物件目録(二)記載の物件(以下、本件物件という)は原告の所有である。

3  被告はその結成以来、正当な権原なく本件建物及び本件物件を占有、使用している。

4  よつて、被告に対し、本件建物については使用借権及び占有権に基づいてその明渡しを、本件物件については所有権に基づいてその引渡しを求める。

二  本案前の主張

1  全金東洋シート支部(支部組合)は、昭和五四年四月二〇日の組合大会決議により全金から組織的に脱退して、同一性を保ちつつその名称を東洋シート労働組合と改めたものであるが、このことに関して、当時支部組合が属していた全金兵庫地方本部(以下、兵庫地本という)は、同年五月一日、支部、組合執行委員長山下稔ら九名に対し、兵庫地本規約に違反する行為を放置し組合役員の義務を怠つたとして、六か月間の権利停止の処分をし、次いで同月四日、一色邦男(以下、一色という)を執行委員長代行に指名した。そして、一色は同月七日臨時大会を招集し、右大会において原告執行委員長に選任されたと主張している。

2  しかしながら、(一)支部組合の規約に従つて民主的に選出された山下ら組合役員に対し、規約所定の制裁手続によることなく一方的に権利停止の処分をすることは、同組合の自主性を侵害し、労組法を無視した違法な行為であつて無効である。(二)また、兵庫地本が一方的に一色を執行委員長代行に任命した行為も、その根拠を欠く(原告の指摘する全金規約一五条は根拠となり得ない)うえ、労組法五条二項五号(組合役員は組合員の直接無記名投票により選挙されるべき旨を定める)、全金規約の定める支部規約基準三五条(右同旨)に反するものであつて無効である。(三)さらに、支部組合規約八条によれば、組合大会の招集権者は執行委員長に限られるから、その地位を有しない一色の招集にかかる集会は組合大会ではなく、したがつて、右集会における委員長選任も何ら法的意味を有しない。(四)その選任の実態も、労組法五条二項五号、支部組合規約付則の選挙細則一条に反して、一部委任状による出席を認め、かつ、挙手による選出の方法をとつているのであつて、手続的にも無効が明らかである。

3  以上のとおり、一色は原告の適正な代表者ではなく、本件訴は代表権を有しない者によつて提起されたものであるから、不適法として却下さるべきである。

三  請求原因に対する答弁

1  請求原因1のうち、会社に関する主張は認める。会社の従業員をもつて組織する全金東洋シート支部(支部組合)がかつて存在したことは認めるが、これが原告であるとの主張、支部組合が同時に全金の組合員をもつて組織され、その下部組織にあたるとの主張はいずれも争う。

被告の実態に関する主張も争う。被告は前述のとおり、支部組合がその組合大会決議により組織を挙げて全金から脱退したものであつて、支部組合と同一体であり、全金からの個々の脱退者の集合であるかのような原告の主張は失当である。

2  同2につき、本件建物が会社の所有であること、支部組合(原告ではない)が会社との間でその使用貸借契約を結び、組合事務所として使用してきたことは認める。

3  同3のうち、被告が現に本件建物を組合事務所として占有、使用していることは認める。

4  同4において、原告は本件建物の使用借権に基づき被告に対しその明渡請求をするもののようであるが、使用貸借契約に基づく借主に、第三者に対する妨害排除請求権が存しないことは定説であつて、右請求自体理由のないことが明らかである。

四  抗弁

1  支部組合は、昭和三七年に全金に加盟して以来その傘下にあつたが、昭和五三年頃から、全金によるストライキ指導などに同調できないとする支部組合員が増加し、全金からの脱退を望む声が高まつてきた。同五四年四月二〇日朝支部組合広島分会(会社広島工場に勤務する組合員三一九名をもつて組織される)において、全金からの脱退を要望する署名簿が、分会員二九〇名余(九〇パーセント以上にあたる)の署名を得て分会執行部に提出された。そこで、分会役員らは本部(広島・伊丹の両分会を統轄する)と協議のうえ、執行委員・代議員の全員一致をもつて、右脱退の是非を議題とする分会大会を開催すること、かつ、右は支部規約一二条所定の議題告示期間をおかず開催すべき「緊急やむをえない場合」(同条但書)にあたるので即日これを招集することを決定し、同日午前一一時頃までは組合員らに伝達したうえ、午後零時二〇分から構内において臨時大会を開催した。同大会には、分会員総数の三分の二(支部規約九条一項)を超える二一八名が出席し(なお、出席者は議事進行中さらに増加した)、大会議長が全金からの脱退を提案説明し、質疑を経て採決したところ、圧倒的多数をもつて可決された。

伊丹分会においては、翌二一日、同様の署名簿が分会員三九名中三五名の署名を得て提出され、同日、臨時大会において分会員全員の賛成により全金からの脱退が可決された。

2  右決議に基づき、山下ら執行部は同年五月八、九日の両日、各分会において再度臨時大会を招集し、従前の名称を「東洋シート労働組合」と改め、支部規約の各条項中から「全金」を削除し、組合費を減額すること等を内容とする規約改正案を提出し、広島分会においては投票数二七六票中賛成一四八票(反対一一〇票)をもつて可決され、伊丹分会においては全員一致をもつて可決された。

3  右1で述べた大会決議により、支部組合は組織ぐるみ全金から脱退し、2の手続を経て被告組合の名を称するに至つたものであつて、支部組合と被告とは全く同一の存在である。一方、原告組合と称するものは、一色らが全金からの組織脱退に反対し、分派活動を行つて被告組合を離脱し、新たに会社内に結成した別個の集団に過ぎない。

4  したがつて、支部組合が会社との間に締結した本件建物の使用貸借契約は、そのまま被告に効力が及び、かつ、本件物件の所有権も被告に存するのであつて、原告にはその明渡しないし引渡しを求め得べき何らの権利もない。

五  抗弁に対する答弁

抗弁事実はすべて否認する。

特に、四月二〇日広島分会においてなされたという脱退決議は、そもそも決議としての体をなしておらず、それ自体不存在というべく、或いはその手続に重大かつ明白な瑕疵がある。以下、これを詳述する。

1  支部規約一二条によれば、大会を招集するには一週間前までに議題その他を組合員に告示しなければならず、従前の大会はすべてこれを遵守して行われてきた。被告は同条但書の「緊急やむを得ない場合」にあたるというが、多数組合員から脱退署名が提出されたのであれば、組合執行部としてとるべき態度は、正規の脱退届として受け入れるか、またはその翻意を説得して撤回させるかのいずれかであり、緊急に大会を開かなければ分会としての統一が保てないというのは、こじつけに過ぎない。全金からの脱退決議(組織脱退の効力は生じないが)の可否を問うのであれば十分に時間をかけ、職場討議などを尽くしたうえで招集すべきものであつて、被告主張のように急速に集会を開いたのは、単に組合員らの脱退意思を直接確認したいため、或いは執行部としても多数の脱退意見に賛同を表明して、全金支部の執行部としての役割を終えたいための処置であつたと考えられる。いずれにせよ、執行部は大会の議題として脱退の賛否を問い、その数を確認することは全く予定していなかつたものである。

2  右集会の出席者数については、関係各証言に不一致があつてあいまいであり、その確認方法も不明である。

3  従前、広島分会の大会は、社員食堂(出席者数の確認が容易である)において午後四時三〇分から行うのが例であつたが、本件の場合、検査場前広場という、春闘の報告集会のような場所で行つており、まじめに採決をとる姿勢が窺われない。

4  議事提案の内容も、「九十数パーセントの人から全金脱退の署名簿の提出があつた。執行部としても組合員の意思を尊重して全金脱退に賛成である。ついては大会で確認決議をしたい。」というものであつて、その決議の対象は不明であり、前述のように、組合員らに脱退の意思の有無を確認したにとどまり、全金を脱退すること自体の決議を求めたものではない。

5  採決方法として、議長は先ず、規約上全く根拠のない拍手による採決を行い、無記名投票を求める声が出るやあわてて挙手採決に変え、次いで起立による採決をはかつたが、その時点では既に零時四〇分の予鈴が鳴り、出席者らは各職場に戻るべく立ち上つていたのであつて、賛成の趣旨で起立した者が何名あつたか確認できる状況ではなく、事実その確認もしていない。

6  被告主張のとおり、全金からの組織的脱退がなされたのであれば、組合の名称は当然に変更さるべきであるのに、右大会においては、名称変更の手続は全くなされず、同年五月八日、九日の臨時大会まで持ち越されている(この点、被告も自認するところである)。これまた、脱退決議が予定、計画されていなかつたことの証左である。

以上に述べたとおり、四月二〇日の分会大会において、全金脱退の件が議案として提出され、決議された事実はなく、単に脱退署名者の意思を確認する集会が開かれたに過ぎない。

六  再抗弁

仮に被告主張のとおり、全金からの組織的脱退の決議がなされたとしても、右は全金規約に違反し無効である。

1  全金規約二条は、「この組合は、この組合の綱領、規約に賛同する金属機械産業の労働者で構成する組織である。」と定め、全金が労働組合の連合体ではなく、労働者個々人によつて組織される単一労働組合であることを明らかにしている。そして、全金の内部的な組織構成として、中央本部、都道府県ごとの地方本部、企業や地域ごとの支部を設けているが、これらは単一組織の中の運営単位であつて、全金から独立した存在ではない。これらが各自代表者や執行機関を有し、対外的に一個の労働組合としての機能を果している事実はあるが、右は全金が企業を横断的に組織する組合である特殊性に基づくものであつて、地方本部や支部が全金の内部組織であることに変りはない。

2  右の性格から必然的に導かれることとして、全金への加盟方式は個人加盟であつて組織加盟はあり得ず、全金規約六二条も、「この組合に加入しようとする者は(以下略)」と定めてその旨を明らかにしている。現実にも組織ぐるみの加盟を認めるような運用はなされていない。

兵庫地本規約三三条には、「労働者が個人または工場、事業場もしくは地域単位に全国金属労働組合に加入しようとするときは(以下略)」との文言があるけれども、その趣旨は労働者が集団的に加入する場合を注意的に規定したものであつて、組織加盟を認めたものではない。また、既存の労働組合が大会決議で全金加盟を決定する場合があることは事実であるが、それによつて組合員全員が自動的に全金組合員となるものではなく、個々の組合員が加盟の手続をすることによつてはじめて全金組合員となるのであつて、従来の例においても、加盟反対者に右決議の効力を及ぼすような取扱いはしていない。

3  右2に述べたことは全金からの脱退についても妥当し、全金規約六四条、兵庫地本規約三四条はいずれも個人脱退のみを前提としてその手続を定めているのであつて、支部や地方本部がその組織ごと脱退することを認める規定はない。

4  なお、支部組合規約一一条七号には、大会の付議事項として、「全国的組織をもつ団体への加入または脱退」が挙げられており、一見、組織的脱退を容認するかのようであるけれども、全金規約は地方本部及び支部の規約に優先する(全金規約八九条)のであり、これと矛盾しないよう右支部規約を解釈する必要があるから、右にいう「全国的組織をもつ団体」とは、例えば業種別労働組合の協議会や全国的な平和団体等を意味し、全金そのものは含まれないと解すべきである。

以上の理由により、被告主張の脱退決議は効力を有しないから、支部組合に全金組合員が残存するかぎり、支部組合は継続して存在することが明らかである。そして、一色ら一四名の支部組合員は終始脱退の意思表示をしていないから、これらを構成員とする原告こそが支部組合と同一体であり、被告は個々の脱退者が集合して新たに結成した団体に過ぎない。

七  再抗弁に対する答弁と反論

1  全金がいわゆる単一労働組合であるとしても、その支部、分会と称されるものが、それ自体独立の労働組合たる法的性格を有し、実質的に単一組合の構成単位となつている場合は、連合体からの離脱と同様、多数決による組織的脱退が承認さるべきである。被告に名称変更する前の支部組合は、もともと企業内組合として出発し、独自の組合規約、役員、決議機関を有し、独立の会計処理や独自の活動をしてきたものである。また、そもそも全金への加盟の際にも、組合大会における拍手による採決をもつて組織ごと団体加盟したもので、個人加盟の手続は全く経ていないし、個々の組合員の氏名を全金に届け出たこともない。

2  全金規約六二条、六四条にいう「加入(もしくは脱退)しようとする者」を自然人に限定すべき必然性はなく、法人ないし法人格なき社団を含むと解するのが、法規の解釈としてむしろ通例である。兵庫地本規約三三条もこの理に立つて、団体としての加入を承認する趣旨と解せられる。

3  原告も認めるように、支部組合規約一一条七号は、「全国的組織をもつ団体」への加入または脱退を、大会における多数決によつて決定し得る旨定めており、原告主張のように、右「団体」からことさらに全金を除外して解釈すべき理由は全くない。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

一  原・被告間で成立に争いのない甲五号証、弁論の全趣旨によつて成立を認める同二号証、同六号証の一ないし九、同七号証、成立に争いのない丙一号証、証人大山勝也の証言及び原・被告代表者各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。すなわち、総評全国金属労働組合東洋シート支部(支部組合)の執行委員長山下稔は、昭和五四年四月二〇日支部組合広島分会の、同月二一日伊丹分会の各大会においてそれぞれ全金を脱退する決議がなされ、支部組合が一体として全金を脱退することに決定したとして、同月二三日、全金兵庫地方本部(兵庫地本)にその旨を通知した。これに対応して、同地本執行委員長柳田勘次は、同年五月一日、右山下ほか支部組合役員(正副執行委員長、書記長、両分会長ら)九名に対し、右脱退は兵庫地本規約に違反するものであり、右九名はいずれも役員でありながらかかる行為を放置し組合員としての義務を怠つたとして、六か月間組合員としての権利を停止することを通告した。一方、兵庫地本は、同年五月四日、一色邦男(原告代表者)を支部組合執行委員長代行に指名するとともに、「直ちに支部臨時大会を開催して支部執行委員会を選出し、組合機能の回復に努力するよう」指示した。右一色らは、既に全金脱退に反対し、残留を望む者を結集すべく奔走していたが、右指示を受けて同月七日朝、広島分会の臨時大会の開催とその参加を呼びかけるビラを配布し、かつ、個別に出席意思の確認をとるなどした。そして、同日夕刻、組合員一一名の出席(他に三名から委任状提出)を得て役員を選出し、一色自身が執行委員長に選出された。

二  被告は、兵庫地本による山下らの組合員権停止及び一色に対する執行委員長代行の指名がいずれも無効であると主張する。しかし、前記四月二〇日及び二一日の両分会の脱退決議が事実存在したかどうか、また、それが有効と認められるか否かの問題はさて措き、支部組合の組合員大多数が全金からの脱退を求める署名簿に署名し、支部執行委員長が大会において右脱退が決議されたとしてその旨を通告し、他の支部役員らもすべてこれに同調するなど、いわば支部組合がほとんどその組織を挙げて全金から離脱し、今後その指導統制に服しない態度を強固に表明する事態となつたことは、否定できない事実である(後に詳述する)。そして、全金規約(甲一号証)一五条は、地方本部は中央本部機関の諸決議及び指示に従い、所属支部及び組合員の指導統制を行う旨を定め、兵庫地本規約(同二号証)四六条は、組合員が綱領規約等に違反しまたは統制をみだし(中略)その他組合員としての義務を怠つたときは、執行委員会は(中略)権利の制限等をすることができる旨を定めているから、兵庫地本が山下らに対してなした組合員権停止の処置は、規約上の根拠を有するものということができる。もつとも、右四六条は、権利の制限等については地本大会または地方委員会のその旨の決議を要件とするところ、本件においてはその立証がないけれども、前述の事態は、全金(ないし兵庫地本)にとつて重大かつ緊急のものであることは明らかであり、単一組合の上級組織である(この点も後述)兵庫地本が、組織維持のため迅速、効果的な対抗手段を講ずることは基本的に許されて然るべきである(例えば、地本執行委員会が先ずこの種制裁処置をとり、後に大会等の承認を得ることも許されるであろう)し、一方、山下ら九名は、全金から離脱してこれに復帰する意思がないことを表明しているのであるから、兵庫地本の右処置によつて、現実には何らの制約を受けず不利益を被らないということもできる。よつて、右処置に先立ち地本大会等の決議がなかつたとしても、それだけでこれを無効とするには足りない。

また、執行委員長代行の指名については、規約上直接の根拠規定は見出し得ないけれども、支部組合の運営の必要上、上級組織たる兵庫地本がその指導統制の権限に基づき、暫定的に代行者を指名してその職務にあたらせることも、近い時期に自主的な選出が予定されているかぎり、組織の維持・運営のための緊急措置として、その効力を是認して然るべきものと考えられる。

三  また、被告らは、一色の招集にかかる大会の決議の瑕疵を主張するが、委任状提出者を出席者として扱つたとの点については、原告代表者本人尋問によれば、委員長選出は実際の出席者の多数決によつたというのであつて、これに反する証拠はないから採用できない。次に、挙手による採決の点についても、なるほど支部組合規約(甲三号証)中の支部選挙細則一条は、組合員の直接無記名投票による旨を定めているけれども、右規約は大会の決議方法一般としては挙手の方法をも掲げている(九条六項)し、前記のとおり出席者は僅か一一名であつて挙手の確認は極めて容易であつたとみられるから、これを無効と断ずることはできない。

四  以上のとおり、被告(補助参加人)の本案前の主張はいずれも採用できず、一色を代表者執行委員長とする本件訴は適法なものというべきである。

第二本案の主張について

一  争いのない事実等

株式会社東洋シート(会社)が、原・被告の肩書地に広島工場を、兵庫県伊丹市内に伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を業とする会社であること、会社の従業員が、「総評全国金属労働組合東洋シート支部」なる労働組合(支部組合)を組織し、少くとも昭和五四年四月までは、右が会社内の唯一の労働組合であつたこと、支部組合は総評全国金属労働組合(全金)の組織上、当時全金兵庫地方本部(兵庫地本)に属し、組合員の勤務する工場別に広島分会及び伊丹分会をもつて構成されていたこと、支部組合は従前会社との間で、別紙目録(一)記載の建物(本件建物)につき使用貸借契約を結び、組合事務所としてこれを占有使用してきたこと、現在、会社内に、従前どおり「全金東洋シート支部」を称する組合(原告)と、「東洋シート労働組合」(被告)とが事実上併存して別個に組合活動を行つていること、本件建物は現に被告が組合事務所として占有使用し、原告はこれを使用し得ない状況にあること、以上の事実は当事者間に争いがなく、または明らかに争わないところである。

また、原告代表者の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、別紙目録(二)記載の物件(本件物件)は、支部組合が昭和五四年四月以前に組合費等をもつて購入して組合活動に供してきたもので、同組合の所有物であるところ、これらも現在被告が専ら占有使用していることが認められる。

二  組合の結成と全金への加盟

成立に争いのない乙一、二、四号証、証人向山国一の証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  昭和二二年頃、自動車用シートの製造販売を目的とする「有限会社大阪マツダ」が大阪市内において設立され、同会社は昭和三〇年代に伊丹工場を、次いで広島県下の原・被告肩書地に広島工場を建設した。一方、昭和三六年七月頃、その従業員によつて「大阪マツダ伊丹工場労働組合」が結成された。同三七年一月、「株式会社東洋シート」(会社)が設立され、右大阪マツダから営業譲渡を受けて営業活動を開始し、これに伴い、右組合も「東洋シート労働組合」と改称して新たに規約(乙一号証)を制定した(当時の組合員数は一〇〇名前後とみられる)。

2  同年一〇月頃、組合員の解雇問題を契機に、同組合幹部らは、全金に加盟してその指導援助のもとに強力な闘争態勢をとることをはかり、同年一一月、臨時組合大会を開催して全金への加盟を提案し、全員一致をもつてその旨を決議した。

3  右加盟について、同組合幹部の認識としては、当時の組合規約(乙一号証)九条が、大会の付議事項として、「全国的組織をもつ労働団体への加入又は脱退」を掲げていることから、同組合がその組織を挙げて加盟するものと考えていた。また、全金側から、組合員個々の加入手続をとるべき旨の指示はなく、現実にもそのような手続はとられなかつた。なお、全金の組合費(全金規約七四条の中央本部費)についても、本来は組合員一名あたりの金額が定められているが、右加盟時の兵庫地本幹部との交渉により、右金額に組合員実数を乗じた額よりもかなり低額のものを納入することで了解を得た。

4  右加盟により、同組合は「総評全国金属労働組合東洋シート支部」と改称し、新たな規約(甲三号証)を制定した。そして、前記製品倉庫が広島工場となり、従業員も大幅に増加したことから、昭和三九年六月頃、伊丹・広島の二分会組織として、伊丹工場内に本部をおき、本部執行委員会規約等を設けた。

三  支部組合と全金との関係

1  全金規約二条は、「この組合は、この組合の綱領、規約に賛同する金属機械産業の労働者で構成する組織である。」と規定し、組織構成として中央本部、地方本部及び支部(工場、事務所または一定の地域において組織するもの)を掲げ(一〇条、一一条)、複数の企業別組合の連合体であることを前提とするような規定は設けていないから、全金はいわゆる単一組織にあたると認められる。

2  一方、前掲甲二号証、乙一号証、証人大山及び向山の各証言によれば、全金加盟の前後を通じ、支部組合は固有の組合規約とこれに基づく代表者、議決機関(大会・代議員会)、執行機関(執行委員会)を有し、組合費(中央本部費を除く)や闘争積立金を経済的基盤として、独自の組合活動を行い、組合資産を取得・管理してきたことが認められ、この点は、他の各支部においても概ね同様と推認される。

3  前掲各証拠によれば、全金の支部は中央本部及び地方本部の、地方本部は中央本部の諸決議及び指示に従つてそれぞれ所属組合員の指導と統制を行うものとされる(全金規約一二条、一五条)が、各支部が対応する企業との間で独自に団体交渉を行い協定等を締結することはもとより可能であり、その自主性、独自性が相当大幅に承認されてきたことが認められる。

4  全金規約は、全金に加入、脱退しようとする者は、各自所定の申込書(または脱退届)をもつて中央執行委員長に申し込み(または申し出)、中央執行委員会の承認を得るべき旨を定め(六二ないし六四条)ており、右は個人としての加入・脱退のみを前提とするように解されないでもないが、前掲大山、向山の各証言及び原告代表者の尋問結果によれば、実際にはこれらの申し込み(申し出)を全金の中央、地方本部に個々に行うわけではなく、各支部が組合員名簿等を保管し、定期大会の前後などに、組合数やその変動を所属地方本部に報告することでまかなつていること、全金加盟後の組合(支部)に新たに加入する場合には、各支部において併せて全金への加入意思を個々に確認するのが通例であるが、既存の組合(その組合員)が新たに全金に加入しようとする場合、多くは大会決議等によつて加盟が決せられるため、時には全金への加入意思がないか、その意思が明らかでない者までが全金組合員として扱われる場合もあること、以上の事実が認められる。

5  以上2ないし4の事実関係に照らし、かつ、支部組合の全金加盟の経緯につき前記二で認定した事実を総合すると、全金は単一組合ではあるが、本件支部組合を含む各支部はもともと企業別組合として独立に成立し、これらが相集つて上部組織たる全金を結成し、企業別に支部と称しているのが実体であつて、その独自性が強く、一方、全金の各末端組合員に対する直接の把握と指導統制はむしろ稀薄であつて、各支部を介してこれを行つているに過ぎないから、結局、全金は実質的にみて各支部の連合体と多く変るところはないと認めるのが相当である。(当事者の主張にあらわれた表現を用いるならば、本件支部組合は全金の単なる運営単位ではなく、実質的にその構成単位をなすものとみて差支えない。)

そして、このような実体に即して考えるかぎり、支部組合は組合としての自主性、独自性に基づき、その最高の決議機関たる大会の決議(支部組合規約七条、一一条七号)によつて、組織的に、すなわち支部組合の全組織を挙げて全金から脱退することも可能というべきである。

6  この点を規約上の各規定に照らしてさらに検討するに、原告は支部組合規約一一条七号にいう「全国的組織を有する団体への加入又は脱退」が、全金以外の団体への(または団体からの)それに限られると主張するけれども、右規約はもともと支部組合が企業別組合(東洋シート労働組合)であつた時期に制定され、全金加盟後の改正規約にもそのまま踏襲された条項であつて、支部組合の自主性、独自性を示すものとして広くその効力を承認するのが相当と考えられるし、全金への加盟自体、右規定に基づく大会決議によつてなされたこと既述のとおりであるから、いまその趣旨、効力を制限して、全金からの脱退の根拠となり得ないとすることは、妥当を欠くというべきである。また、兵庫地本への加入方法を規定する同地本規約三三条は、「労働者が個人または工場、事業場もしくは地域単位に全金労に加入」することを承認しているが、右の「工場、事業場、地域」とは、全金規約一一条が支部結成の単位として定めるところと一致し、一個の企業内組合がそのまま加入して一支部となることを容認する趣旨と解することも可能であり、そうだとすれば、その組織的脱退をも肯定して差支えないと考えられる。もつとも、脱退に関する全金規約六四条、兵庫地本規約三四条は、本来、組合員個々の脱退を想定したものと解せられるけれども、これとても、右のような組織的脱退を禁止するまでの制約を、文理上認めるには足りない。

以上のように、規約上の関係規定に照らしても、支部組合の組織的脱退は可能というべきである。

四  脱退決議の存否

1  前掲甲五号証、弁論の全趣旨によつて成立を認める甲一一ないし一四号証、証人原田邦雄、同田中主税の各証言によつて成立を認める乙八号証の一・二、証人大橋義人、同原田邦雄、同田中主税、同久保重信、同橋本博の各証言、原・被告各代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 支部組合は、全金加盟以来、諸般の組合活動を通じてその指導、統制を受けてきたが、経済情勢の推移、特に会社の主力製品である自動車部品業界のきびしい変動から、生産性の向上、会社への協調を必要とする意識が組合員の間に次第に高まり、昭和五三年頃には、全金からのストライキ指令に公然と反対する現象などがみられるようになり、進んで、全金からの脱退を求める動きが活発化するに至つた。

(二) 昭和五四年四月当時、支部組合は、広島分会三一九名位、伊丹分会三九名位の組合員を有していたが、同月一八、一九日の両日、七五名の組合員が発起人となつて、「全金から脱退し新生東洋シート労働組合を設立することが最良の道である」旨の趣意書を配布して署名を呼びかけ、広島分会において二九〇名余、伊丹分会において三五名位の署名を得て、広島工場においては同月二〇日午前一〇時頃、伊丹工場においては二一日朝、それぞれ支部組合執行部に署名簿を提出した。

(三) 広島分会においては、支部副委員長一場征彦、分会長吉田定雄、代議員議長原田邦雄その他役員全員がその取扱いを協議し、委員長山下(伊丹分会長を兼ねる)とも連絡、協議のうえ、右脱退問題について同月二〇日午前零時二〇分から構内検査場前広場で臨時大会を開くことを決定し、同日午前一一時頃までに、各代議員等を通じ口頭で各組合員に伝達した。そして、右時刻には同広場に分会員らが参集し、資格審査委員久保重信らが出席者数を確認したところ、分会員三一九名中二一八名の出席が確認されたので、支部組合規約九条一項の定足数(組合員の三分の二以上)を満たす旨を宣言し、次いで分会長吉田が、「九十数パーセントの人から全金脱退の署名簿の提出があつた。執行部としても、組合員の意思を尊重して全金脱退に賛成である。ついては大会で確認決議をしたい。」との趣旨を述べ、代議員議長原田が大会議長として意見を求めたところ、署名について職制による強制はなかつたかとの質問や、署名活動は必ず組合を通じてやるべきだとの意見、脱退の是非についてはもつと時間をかけて十分に討議すべきであるとの意見、その他賛否双方の意見が述べられ、引き続き議長が賛成者に拍手を求めたところ、拍手者多数とみられたが、議長はさらに零時四〇分の予鈴後、同四五分の始業ベルに先立つ時刻頃に脱退賛成者の起立を求め、圧倒的多数の起立者があると認めて、全金脱退の議案が可決された旨を宣した。

伊丹分会においては、署名簿の提出された翌二一日、同様に臨時大会を開催し、分会員全員の賛成で全金脱退の提案が可決された。

(四) これに対し、一色ら脱退に反対する者一一名位が、同年五月七日、別に支部組合臨時大会を開いて新たに一色を執行委員長に選出したことは前記のとおりである。一方、山下、吉田らは同月八日、九日の両日、各分会において再び臨時大会を招集し、組合の名称を「東洋シート労働組合」(被告組合名)と改めること、支部組合の各条項から「全金」の名を削除すること、組合費を月収の一〇〇分の一・五から一〇〇分の一・〇に減額すること等を主な内容とする規約改正案を提出し、広島分会においては投票数二七六票中賛成一四八票、反対一一〇票(無効一八票)をもつて可決され、伊丹分会では全員一致をもつて可決された。また、一色らも同月一六日、組合の名称を「全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部」(原告組合名)と改めるなど若干の規約改正をし、広島地本の指導統制下に移行した(伊丹工場内に全金支部組合員を称する者が皆無となつたことによる)。

(五) なお、その後右両組合の組合員数には相当の変動があつたが、現在、原告組合員を称する者は六五名位、被告組合員として組合費を納入している者は二五五名位とみられる。

2  ところで、原告は上記のうち四月二〇日の広島分会大会につき、その決議が不存在であると主張するところ、その趣旨は、右大会の招集以下決議までの手続に重大な瑕疵があるとの主張をも含むと解せられるので、その理解のうえで、以下原告の指摘する諸点に検討を加える。

(一) 大会開催の手続として、支部組合規約(甲三号証)一二条は、開催の一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示すべき旨を定めているところ、四月二〇日のそれが右の手続を経なかつただけでなく、同日午前一一時頃に口頭で組合員に告知し、午後零時二〇分から開催するという、極めて慌だしいものであつたことは、前記認定のとおりである。このような方法が右一二条但書の「緊急やむを得ない場合」として是認されるか否かは、付議すべき主題が全金からの脱退という極めて重大な案件であるだけに少なからず疑問であり、執行部及び代議員の判断の性急さまたは安易さが先ず指摘されなければならない。しかしながら、さらに立ち入つて考えると、(1)右の告示期間の定めは、もとより組合員全員に議題を周知させ、それについて十分に検討、考慮させることを目的とするものと解せられるが、本件の場合、全金からの脱退の是非はすでに前年頃からかなり公然と論ぜられていたことが窺われ、かつ、四月一八、一九の両日、広島分会員の九十数パーセントに及ぶ脱退署名が集められ、同月二〇日朝執行部に提出された(伊丹分会においても、提出に一日の差はあるが事情はほぼ同様)のであるから、右脱退問題は当時組合員のほとんど全員が十分に認識していたばかりでなく、進んで早期の脱退を希望していたと認められる。(2)一方、このような動きに対し、全金兵庫地本等によつて脱退を阻止し全金組織を維持すべくいわゆるオルグ活動が活発になされており、事態はなお流動性を有していたことが、前掲証言等から窺われる。右脱退の当否自体はもとより論ずべき限りではないが、少くとも支部組合執行部としては、前記署名を通じて組合員の意思が脱退に向けてほとんど一致したその機会に、大会において脱退の決議をすることが、支部組合の統一を維持するために最適と判断し、その点に緊急性を認めたものと推察され、右は組織体の論理として一応理由があるものと考えられる。(3)前掲向山証言によれば、全金加盟の際も、同様の緊急処置としての大会招集をしたうえで加入の決議をしたことが認められる(乙一号証は当時の東洋シート労働組合規約であり、その一一条には支部組合規約一二条と同旨の規定があるから、その但書によつたものとみられる)。(4)前掲田中証言によれば、支部組合(広島分会)は、過去に闘争積立金を半日ストの賃金補償として使用する件などで、緊急臨時大会を開いた事例が二回程度あることが認められる。

右のような諸点を考慮すると、四月二〇日の広島分会大会が前記の手続で開催されたことをもつて、大会自体の不成立や決議の不存在を云々するのはあたらず、また、右は決議の効力を失わしめるほどの瑕疵にはあたらないと判断される。

(二) 大会の出席者数については、前掲乙八号証の一及び田中証言によれば、資格審査委員である同人らがその場で職場ごとの代議員の報告を受けて集計し、前記の人数を確認して定足数を超える旨を宣言したことが認められ、その間故意または過失による違算があつたともみられないから、この点の原告の主張もあたらない。

(三) 大会の場所についても、当日昼の休憩時間内に終了させたいとの考慮から、集合・解散の容易な場所を選んだものと推認され、過去に同所で大会ないし集会を開いた事例もあることが前掲田中証言によつて認められるから、ことさらに異例の措置をとつたともみられない。

(四) 議案の提出については前認定の如くであり、大会においてそのように趣旨を説明し賛否を問う以上、支部組合(広島分会)として脱退すべきか否かを議題としたものと認めるに十分である。

(五) 採決方法として、なるほど支部組合規約九条六号は、直接無記名投票または挙手によつて行うべき旨を定めており、拍手や起立は正規の採決方法とは称し得ない(挙手による採決を経たか否かについては証言が分かれており、いずれとも認定し難い)。しかし、前記署名簿提出の事実からみて、出席者の大半が脱退に賛成することは多分に予測し得たとみられるし、起立は実質的に挙手に劣らず確認しやすい方法といい得るから、これらによる採決自体を無効とする主張は採用し難い。問題は起立者数の確認であるが、前掲大橋証言や原告代表者の尋問結果中、賛成の起立者は少数であり、予鈴により立ち上つて職場に戻ろうとした者を賛成者に数えたという部分は、前記の署名者数や、同年五月七日一色らが呼びかけた大会の参加者が委任状提出者を含めて一四名であつたこと(もつとも、その後曲折を経て原告組合員が六五名位となつたことはさきに認定のとおりである)に照らして措信し難く、「圧倒的多数」が起立した旨の乙八号証の一の記載や原田証言等は措信し得るものと考えられ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

(六) 組合の名称変更が遅きに過ぎるとの指摘については、山下ら執行部が、名称変更を含む前記のような規約改正を立案、準備し書面化するのにある程度の期間が必要であつたとみられるから、即日その変更を宣言しなかつた故をもつて、脱退決議自体がなかつたとする主張は採用できない。

以上のとおり、脱退決議不存在の徴表として、或いは右決議の手続上の瑕疵として原告が指摘する諸点はいずれもそのようには認め難く、四月二〇日、広島分会大会において、全金脱退の決議が有効に(但し、内容上の問題については後述)成立したと認めることができる。

なお、翌二一日伊丹分会において同様の決議がなされたことも前記のとおりである。支部組合規約は単に「大会」というのみで各分会別の大会を明定していないけれども、前記のような分会結成の経緯や、同規約総則において両分会をおく旨を定めていること、両分会が遠隔にあつて両分会員全員が集合するのは事実上困難であること等に照らすと、少くとも両分会の大会においてそれぞれ脱退が決議された時点で、支部組合の大会決議として成立したものと解するのが相当である。

五  脱退決議の内容的効力

原告が再抗弁として主張する見解については、すべて前記三の5、6において述べたとおりであり、支部組合は組織的(団体的)に一体として全金から脱退し得ると解するから、前記脱退決議はその効力を承認すべきものである。

六  支部組合と被告との同一性

1  以上に述べたとおり、支部組合は、昭和五四年四月二〇日、二一日の各分会大会決議により、その組織を挙げて全金から脱退し、東洋シート労働組合すなわち被告の名を称するに至つたものと認められ、したがつて、被告組合は支部組合と同一性を有すると結論される。そして、このように認定、判断する以上、原告は支部組合が被告組合に移行する過程で、これを離脱した者が集合して新たに結成した組合であるといわざるを得ず、このことは、原告の組合員が終始全金組合員たる地位を有していることによつて左右されるものではないと考えられる。

2  してみれば、支部組合が会社との間に結んだ本件建物の使用貸借契約は、そのまま被告組合について効力を有し、被告が右契約に従つて占有使用し得べく、また、支部組合所有の本件物件は被告が所有するところであつて、原告はその使用借権ないし所有権を有しないというほかはない(本件建物の占有権についても同様である)。

七  結語

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川雄三)

別紙物件目録(一)、(二)及び同図面〈省略〉

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